プロフェッショナリズムを追求する旅

戦略コンサルタントという理解し難い職を通じて感じるところ等々、徒然に書いて行きます

論理の前提の捉え違いに気付かない場合が多い

Twitterで書いた下記のことについて。

 

コンサルタントは論理的に物事を考え、語ることが求められる。これは絶対条件とも言える。実際には経験則で語ることは有るのだが、少なくとも「感情」に基づいて話すことはない。

一方で、「論理だけでは通用しない」といったことは多く言われること。これは何なのか。

 

これは、論理の「前提」の捉え違い。

経営において絶対的真理は無いので「価値観」(「情」と言われるのはこの部分)を前提に組み立てることになる。コンサルタントは往々にして、その前提を見誤る。

思い込み/自分の価値観を前提に話を進めてしまう(傍から見ると、価値観を押し付けている)ことが多い。

これが「論理だけでは通用しない」と言われる理由だと感じる。この表現自体が正確ではなく、「コンサルタントの価値観を前提とした論理だけでは通用しない」ということだと思う。

 

戦略コンサルタントが組み立てるべき論理は大きく下記の3つだと考えている。

  1. 「何をすべきか」(施策/「答え」)を導くための論理(作業の論理)
  2. 施策を顧客の社長に納得し、動いて頂くための論理(社長説得の論理)
  3. 従業員に動いて頂くための論理(従業員説得の論理)

 

この3つの使い分けを意識していない場合が多い。

一本の論理(多くは1.)を全ての場面で使おうとする。そのため、2.が必要な場面で1.に基づいた膨大な量の「作業報告書」が示されたりする。

(参考)「『報告書』について」

 

これら全て、起点(前提)は「価値観」になる。しかし、この前提を捉え違えている場合が非常に多い。

 

戦略コンサルタントが取り組む多くの案件において、「利益を高めることが正しい」もしくは「成長を求めることが正しい」といった価値観を暗黙の了解の下に前提とし、議論を始めていると思う。

もしくは「株式会社は株主の利益を最大化させるべき」といった前提の方が、よりはっきりとするかも知れない。

 

この点について、指摘されても気付かない人が居る。「何で『利益を上げる』ことを前提に話を進めているのか」と聞いても、それを「当然」のことと捉えてしまっているので「当たり前じゃないですか」といったような返答が来る。

 

本を読んでいても、時に「企業は利益を上げることが目的」といった書き方がされていることがあるが、これ自体が実際には、結構議論になる。「成長を求める」という点については尚更。

百歩譲って「法人」自体は利益を上げることを目的としていたとしても、その構成要素である自然人(役員・社員)は必ずしもそれを目的としない。

これは社長についてでも言えること。

ここに情とか心理と言われるようなものが作用している。

(参考)「経営者が『会社を成長させよう』と思っていないことも多い」

 

そして、これが前提の食い違いを引き起こす。

  

コンサルタントは「利益を上げる」ことを当然の前提として捉え、社員もそれを目的として行動することを「正しい」と考えてしまう。「利益を上げることが必要ですよね」と言えば、皆がそれを理解すると思い込んでいる。

そして、それに基づいた論理を組み立てる。その点ではかっちり論理が組み上がる。

確かに、「利益を上げる」ことが共通認識となれば、論理で「追い込む」ことが出来る。

 

しかし、聞いている側(社員など)は「利益を上げる」ことに何の意味も感じていないことが多い。それよりも「今の立場を守る」、「楽をしたい」もしくは「若造の言うことを聞きたくない」といった価値観に基づき行動が出来上がっていたりする。

そうすると、コンサルタントが組み上げた論理は、そもそもの前提が異なるので成り立たなくなる。結果として、議論の食い違いが起こる。

コンサルタントは「利益を上げる」を前提とした論理で例えば「大幅なコスト削減」といった結論に帰着する一方で、聞いている社員の側は「楽をしたい」を前提に話を聞いているので、どこまで行っても「大幅なコスト削減」という結論に辿り着かない。

 

 

「理屈は分かるが」という反応は少なくないと思うが、その多くがこのような状況。「仮に『利益を上げる』を目的とするなら論理構造は分かるが(そもそも、その目的に意味を感じない)」ということ。

 

自分の考えを「論理的」と信じ、「相手が論理を理解しない」と考えている人は、実は論理の一番大事な所を間違っている。

これが生じていることのはず。

 

少し戻って3つの論理。これらは使い分けが必要。

1.の「作業の論理」と2.の「社長説得の論理」については、まだ同じ論理でも何とかなる場合も多い。前提が大きく乖離しているということは少ない(仮に乖離していると、説得に達する前に議論が破綻している可能性が高い)ため。

 

しかし、これらと3.の「従業員説得の論理」を同じ論理構造で行くのは非常に危険。総すかんを喰らい、組織が全く動かない危険性が高くなる。

簡単に言えば、経営者向けの報告書をそのまま従業員向け説明で使っている時点で、実は危険な場合が多い。(経営者向けの中で、少し踏み込んで書いていれば別なのだが)

 

 

自分の勝手な思い込みを前提に論理を組み立て、その論理が聞き入れられない相手を「非合理的」と称する。

しかし、それは単に自分の勝手な思い込みを押し付けているだけで、論理的でも何でもない、ということだと考える。

 

情/心理をしっかりと洞察し、論理を示すべき(説得すべき)相手の「前提」が何なのかをしっかりと掴む。前提をしっかりと揃える。これが全ての論理の基本。

「組織を動かす」ために、この点にかなり意識が払うことが重要だと思う。

 

 

ちなみに、若い頃、私は散々「論理だけでは通用しない」と言われたのだが・・・。