プロフェッショナリズムを追求する旅

戦略コンサルタントという理解し難い職を通じて感じるところ等々、徒然に書いて行きます

コンサルタントの競争における前提要素と差別化要素

朝方に書いた記事について、Twitterで少し補足したが改めてしっかりと書きたい。

 

takashi-kogure.hatenablog.com

 

新卒と中途、コンサルタントになるためにどちらが良いのかという議論は良くされる。

これは以前にも少しブログ内で書いた。(「戦略コンサルタントは新卒が良いか/中途が良いか」

ここで書いたように、結論としてはどちらでも良いのだが、一方で、戦略コンサルタントで勝負するのであれば事業会社での経験は3年で十分(むしろ少し長い位)だと考えている。

 

コンサルタントには、最低限求められる能力、言い換えると「前提要素」と言うべきものが有る。

事実と論理を組み上げて物事を述べるということ、情報を批判的に捉えるということ。こういった「癖」とも言うべきものが幾つか有る。加えて、情報収集、数値処理、資料作成等のコンサルの「作法」のようなスキルが有る。

これらは恐らく、どのファームで育ってもマネジャーとして独り立ちしている人であれば備えているはず。逆に、これがその段階で備わっていないファームというのはコンサルタントとしてはかなり危険な状態(だが、このような「自称」コンサルファームも少なくないのも事実)。

 

これらの能力は、新卒であれ中途であれ、コンサルタントとして生きて行く上で身に付けていなくてはならないこと。そして、特に「癖」の方についてはファームで過ごさないと身に付けることは難しいと思う。「作法」もファームと事業会社でレベル差がかなり大きい場合が多い。

中途の面接をしていて「コンサルに近い仕事をしているので、コンサルとして求められる基礎能力は備わっています」という主張をする人も居るのだが、「コンサルに近い」と「コンサル」は全く別物。

特に「癖」の部分は「ファームで何年過ごしたか」がかなり大きな要素となる。(当然、ただ過ごしただけで身に付く訳でもないし、能力/適性により差はかなり付くが)

 

新卒で入ると、アナリスト時代に「癖」も「作法」も徹底的に叩き込まれる。私は「アナリスト教育」と言っているが、これをしっかりと受けたか否かで、足腰の強さは決定的に変わる。

 

この「前提要素」が身に付いて初めて、「差別化要素」の競争に移ることが出来る。

 

中途で入った場合、この「前提要素」については新卒と横並びでのスタートになる。

社会人数年での多少のアドバンテージは有るかも知れないが、戦略系ファームの場合は特にプロパーの優秀さや入社前の準備がかなり凄いので、むしろビハインドが有ると考えた方が良いと思う。

ここで、入社時の職位が大きく影響する。

これらの「前提要素」はアソシエイト前半までには身に付いていないと厳しいと思う。

しかし、中途の場合にはアソシエイト入社の場合も多い。そうすると、新卒であれば4年程度をかけて身に付けることを、精々2年で身に付けることが求められる。一方でアナリストで入れば、随分と余裕が生まれる。

 

とは言え、最初の会社で3年程度経験し27歳位で入社というのであれば、3年で「前提要素」を身に付け、計5年位(32歳位)でマネジャーに昇進というのは許容の範囲内だと思う。しかし、例えば32歳で入社するとその計算ではマネジャー昇進が37歳。これだと駄目とは言わないが、少し厳しいと思う。

 

しかも厄介なのは、前職での経験が長ければ長いほど、そこでの「癖」が付いてしまっており、コンサルタントとしての「癖」が付かない。先に前職での「癖」を取り除く作業が必要になる。これに時間がかかる。

これも、ある程度の経験を積んだ中途がコンサルでやって行くことを難しくする理由。

 

 

加えて「差別化要素」の方についてだが、これは正直、前職で3年経験していても6年経験していても大差無い。恐らく、2年経過した段階位からは、課長級の仕事を経験するまでは大差無い。

勿論、差は有るのだが、事業会社の課長未満でできる仕事というのはたかが知れている。確かにその業界/会社固有の知識は高まるが、それはコンサルタントで重要性の高いものではない。

1年間長く事業会社で経験を積むということは、トレードオフとしてコンサルに入るのが1年遅くなる。得られる経験よりも、若手として過ごすコンサルでの1年間を失う機会損失の方が遥かに大きい。

また、経験として知っているという強みは、逆にマイナスに働くことも有る。ある領域(特に業界)について詳しくなるということは「固定観念」が生じるということ。

経験で語るのは戦略コンサルタントではない。その点に濁りが生じることも少なくない。

これもあって、あまり長い期間事業会社を経験するのは「戦略コンサルタントとして勝負する」ということを考えるのであれば得策ではない。

 

 

とは言え、この話の大前提は「戦略コンサルタントして勝負する」ということ。

例えば日系の大企業で10年間働き、その後に3年から5年間程度をコンサルファームで過ごし、その後に大企業時代に培った能力をベースに外資系企業やベンチャー等に転ずるというキャリアパスも有る。

これは、大企業時代に培った能力が「前提要素」で、コンサルで得たものが「差別化要素」となる。全く話が変わる。

そして個人的には、このキャリアパスを歩む人の方がビジネスパーソンとしての競争力は格段に高いと考えている。

 

このパスを考えるのであれば、コンサルファームはあくまでも「学習の場」と割り切り、尚更に目先の職位やプライドなどは全て捨て、年下の上司などに徹底的に鍛えてもらうことを意識した方が良いと思う。