プロフェッショナリズムを追求する旅

戦略コンサルタントという理解し難い職を通じて感じるところ等々、徒然に書いて行きます

(続)「戦略系」と「総合系」

先日書いた下記の記事について、何となく論調として「『戦略系』が絶対的に良い」というような雰囲気になってしまっているが、これはあくまでも一側面からしか見ていないものなので、補足。

takashi-kogure.hatenablog.com

 

この中で、

総合系に身を置く立場で言うのもどうかと思うが、総合系で評価が高い人であり、かつ、コンサルタントとしての成長を追求したいのであれば、戦略系ファームに転じることを真剣に目指した方が良い。

と書いた。

これは「コンサルタントとしての成長を追求したいのであれば」ということが前提。あくまでも、「自身の成長を追求するため、『育つ』という観点で場を選ぶとすれば」ということ。

 

戦略系と総合系についての話はこのブログ内で色々と書いているが、上記の点で言えば戦略系を選べるのであれば戦略系を選んだ方が良い、という結論になる。書いたようにこれは絶対。

 

しかし、ビジネスとして見た時に「戦略系」と「総合系」のどちらが長けているのか。こうなると話が全く変わる。そして、これが私が戦略系を離れた最大の理由。

パートナーという立場に立った時、見える景色が全く変わる。

 

私自身、前に居た戦略系ファームを離れるという決断をする際にはかなり悩んだ。

それまでも営業をする立場に居たし、ファーム運営にも色々と関わっていた。しかし、パートナーへの昇進という話を受けて明確に、「このファームに居続けることが良いのか」という大きな疑問が生じた。

組織風土については嫌な点は無く非常に好きだったし、優秀なスタッフも多い。評価を受けていたということもあって居心地の良さのようなものも感じていた。

しかし、唯一、「ビジネス」として見た時には違う、と。

 

ビジネスとして見た時に、最も、かつ、圧倒的に成功しているファームはアクセンチュアだと思う。これは、この業界に属している人であれば同意頂けることが多いと思う。

「ビジネスとしての成功」というのは色々な尺度が有る。

ここで特に私が意識するのは「持続性」「成長性」という2つの点。

 

 

まず、稼ぐ仕組みが非常に強い。収益構造もそうだし、案件の仕立て方もそうなのだが、持続性が(少なくとも戦略系ファームと比べて)かなり担保された形になっている。

戦略系ファームの多くにおいて、例えばパートナーの半分が急に退社する、といった事態が生じた場合、一気に縮小する(=人員整理をする)ことが不可欠だと思う。

しかし、アクセンチュアで同様のことが起きても、(勿論、ある程度の影響は有るだろうが)ある程度耐えられると思う。

 

戦略系ファームは良くも悪くも「個人商店」の延長線上に過ぎない。「能力が抜群に高い『個』の集合体である」ことが全ての前提になっている。

最近はそこから脱却するファームも出て来ているが、「プロフェッショナルファーム」である限り、この性質に大きな変化は無いと思う。むしろ、仮にその性質に変化が生じるとすれば、「プロフェッショナルファーム」の価値が薄れる可能性が高いと思う。

(とは言え、時代変化もあって、「個人商店からの脱却」=「プロフェッショナルファームとしての価値の毀損」とならない形が見出せるのかも知れないが)

これにより、持続性の観点から見ると、戦略系ファームは相対的に不安定だと感じる。

 

 

また、総合系の方が案件が「型」にはまっていると感じる。

これにより、能力的に劣るスタッフを抱えていても、一定程度のパフォーマンスを上げることが出来る。

うちの会社に居るAC出身のパートナーが「スタッフなんて猫の手よりもマシな程度で良い」と言い切っていたのが象徴的。そこまで言い切れる案件の「型」を創り出す姿勢と能力は、本当に凄いと感じる。

これによって、規模の拡大を図り易くしている。

 

戦略系ファームでも「型」を作る意識は勿論有る。しかし、ここまで徹底した型を作っているファームは少ないと思う(とは言え、存在するが)。

アクセンチュアは別格としても、これらの点は他の総合系ファームにもある程度共通して見える性質だと思う。これにより、ビジネスとしては総合系の方が比較的強いように感じる。

 

戦略系ファーム各社が、「戦略コンサルタント」として稼ぎ続けることに難しさを感じて志向を変えつつある。しかし、振り切れていないところが多い。

言うなれば「プロフェッショナルファーム」と「事業会社」との狭間で苦しんでいると感じる。

 

元々、総合系ファームの(パートナークラスの)高い報酬は、「規模を稼げる仕組みを作ること」の対価という側面が強いと思っている。「安い若手スタッフを多く使ってでも回せる仕組みを作る」という言い方の方が良いかも知れない。

レバレッジを効かせることで高い報酬を得ていたと思う。

 

しかし戦略系ファームの場合、こちらは若手から比較的高い報酬になるが、それは「付加価値の高い仕事をすること」の対価として得ていた。

そのため、変に振り切った場合には、既存の高い報酬の源泉(拠り所)を毀損することにも繋がるため、それを難しくしているのではないかと感じる。

 

 

これらのことは、若手が「サラリーマン」として過ごす場を選ぶという視点で見た時にも影響して来ると感じる。

そこで働く立場として戦略系ファームが優れていると感じるのは、「プロフェッショナルたるコンサルタントとして能力を高める」という側面についてのみの話。それを志向する人にとっては確かに良い場なのだが、「あくまでも生活の糧を稼ぐ場」という割り切りを前提として選ぶ際には、必ずしも良いものではないと思う。

 

戦略系ファームの厳しさは、やはり尋常ではない。安定もしない。

提供価値を追求するという点での極めて強いプレッシャー、厳しい競争等々。私は10年弱に亘って身を置いたが、「身を削る」という表現が当て嵌まると思う。そして、恐らくトップティアの戦略系ファームはもっと厳しいのではないか・・・と推察する。

 

一方で総合系の場合、そこまで厳しくはない(ファームによってはかなり「緩い」)。

「出世競争が激しい実力主義の企業」には区分されると思うが、少なくとも「尋常ではない」というレベルではない。

これは、総合系の場合、前述した「型」により「優秀でない人でもできる仕事が(しかもかなりの量)有る」ということが大きいと思う。

また、顧客からの期待水準(「期待すること」の方が適切かも知れない)も随分と違っていると感じる。

 

そのため、「確かに少しハードワークも有るし、少し厳しいが、それなりの報酬を貰って生活を営む」という道を選べる。少なくとも、旧態依然としている企業に比べてかなり健全な環境。

ほどほど楽しい案件も有るし、新橋のガード下で会社の愚痴を言い合うような人も少ない。理不尽なことも少ないので、居心地は良いと思う。

 

 

結局は価値観によると思う。

コンサルタント」としての個の成長を追求するのであれば戦略系の方が良いと思うし、「サラリーマン」として働く場として考えると総合系の方が良いかも知れない。

 

 

但し、総合系ファームも栄枯盛衰は大きい。アクセンチュアは確固たるものを築き上げた感が有るが、他のファームはまだそこまでは達していない。戦略系ファームも含め、時代変化の渦の中で淘汰・変質が暫く続くと思う。

そのため、一生働ける場とは考えない方が良いとは思う。

そうすると、「しがみつけない場」が「サラリーマン」として働く上で適切な場所かどうか、という疑問は残るが。