プロフェッショナリズムを追求する旅

戦略コンサルタントという理解し難い職を通じて感じるところ等々、徒然に書いて行きます

「現場の気持ち」に引きずられないことが必要

事業会社から転職して来たコンサルタントの一つの強みは「現場感覚」。

確かに「現場の実態や、そこで働く人の気持ちを理解している」ということはプラスに捉えられることが多く、それをアピールする人も多い。

 

しかし、コンサルタントとして重要なのは、その「現場の気持ち」に引きずられないこと。

「現場感覚」を持つということは、一側面としては確かに強みなのだが、一方で決定的な弱みにもなりかねない。

 

これは企業の役員についても感じることなのだが、「現場」に居た時の気持ちを忘れず、そこで働く人の気持ちを「理解できる」ことは有益なのだが、それが故に「経営者の視点」が損なわれることも少なくない。

必要なのはあくまでも、「経営者の視点」で必要と判断した施策を実行する上で障壁になりそうな要素や、その施策を実行した際の影響を把握/予想するということ。その施策を示したり実行に移した際に、「現場」で何が起こるのか。

 

 

経営(もしくは会社)側と「現場」側。

この両者の利益が一致する場合は良いが、往々にしてこれらの利益は相反する。

これに対して、コンサルタントはあくまでも経営側に付く。「現場」の人達の利益を損なうような提言が必要な場合も有る。

訴訟のように労使が対立し、弁護士としてどちらか一方に付いているような場合は立ち位置を取り易いと思うが、コンサルタントは見た目的に、その間に立っていたりする。しかも、経営者も表向きは「従業員のために」という建前とは異なる本音を持っている場合も多い。

しかし、間に立っているというのはあくまでも「見た目」であり、コンサルタントのクライアントは経営者。そのため、「経営者の利益」(経営者個人の金銭的利益、といった狭いものではない)を唯一無二の目的として働く。

 

採用面接の際、たまに「企業で働いている人達のためになるコンサルタントになりたい」という志望理由を聞く場合が有るのだが、それはコンサルタントの仕事ではない。

あくまでも、経営にとってベストな提言を示すのがコンサルタントであり、「現場の人達のためになる」ことを提言するのは、それが結果として経営にとって良い効果を生むからに過ぎない。

 

 

「現場の気持ち」に引きずられる理由としては、自分自身が「現場」経験を有するが故に気持ちを理解できてしまうといったことのほかに、「日々接する顧客側担当者に嫌われたくない」という心理が働くことも少なくないと思う。

最終的に経営トップに対して提言するプロジェクトだとしても、その検討過程で顧客側担当者と対峙する場合が多い。プロジェクトによっては「同士」のような関係になるような場合も有る。

そのため、日々接する人達の気持ちに反するような提言をし辛い、という心境に陥るケースや、時には「顧客の〇〇さんが~という理由で希望しているから」ということを理由として提言を取りまとめようとするケースが生じたりする。

 

正直、これらは論外。

プロジェクトで日々接する顧客側担当者については、上手く協力を得られるような働きかけが必要だが、「友達になる」とは全く異なる。

あくまでもプロフェッショナルとして接することが必要。

 

 

「現場」をしっかりと理解することは確かに重要だが、一定以上の規模の企業での経営を考える上では、過度に理解し過ぎていることは邪魔になる。

これは心理面もそうだし、「現場の常識」がゼロベースの思考を邪魔するということもそう。むしろ「現場を知らない」ことが強みとなることも有るし、コンサルタントはそれが故に価値を出せる。

 

 

医療の「トリアージ」。

個々の傷病者の気持ちを考えてしまうと、これほど残酷な仕組みは無いと思う。あくまでも「集合」として見て、その中での最適解を探る、という割り切りが無いとできない。

コンサルタントにも、この観点が必要となる場合は少なくない。

 

プロジェクトでも、自身の「現場」での経験を踏まえて物事を考えたり、日々接する顧客側担当者と心を通わせることも全てを否定するわけではない。

しかし、それらはあくまでも手段。それによって思考にブレが生じることは絶対に避けることが必要。

 

プロフェッショナルとしての立ち位置は常に意識することが必要だと思う。