プロフェッショナリズムを追求する旅

戦略コンサルタントという理解し難い職を通じて感じるところ等々、徒然に書いて行きます

コンサルタントの競争における前提要素と差別化要素

朝方に書いた記事について、Twitterで少し補足したが改めてしっかりと書きたい。

 

takashi-kogure.hatenablog.com

 

新卒と中途、コンサルタントになるためにどちらが良いのかという議論は良くされる。

これは以前にも少しブログ内で書いた。(「戦略コンサルタントは新卒が良いか/中途が良いか」

ここで書いたように、結論としてはどちらでも良いのだが、一方で、戦略コンサルタントで勝負するのであれば事業会社での経験は3年で十分(むしろ少し長い位)だと考えている。

 

コンサルタントには、最低限求められる能力、言い換えると「前提要素」と言うべきものが有る。

事実と論理を組み上げて物事を述べるということ、情報を批判的に捉えるということ。こういった「癖」とも言うべきものが幾つか有る。加えて、情報収集、数値処理、資料作成等のコンサルの「作法」のようなスキルが有る。

これらは恐らく、どのファームで育ってもマネジャーとして独り立ちしている人であれば備えているはず。逆に、これがその段階で備わっていないファームというのはコンサルタントとしてはかなり危険な状態(だが、このような「自称」コンサルファームも少なくないのも事実)。

 

これらの能力は、新卒であれ中途であれ、コンサルタントとして生きて行く上で身に付けていなくてはならないこと。そして、特に「癖」の方についてはファームで過ごさないと身に付けることは難しいと思う。「作法」もファームと事業会社でレベル差がかなり大きい場合が多い。

中途の面接をしていて「コンサルに近い仕事をしているので、コンサルとして求められる基礎能力は備わっています」という主張をする人も居るのだが、「コンサルに近い」と「コンサル」は全く別物。

特に「癖」の部分は「ファームで何年過ごしたか」がかなり大きな要素となる。(当然、ただ過ごしただけで身に付く訳でもないし、能力/適性により差はかなり付くが)

 

新卒で入ると、アナリスト時代に「癖」も「作法」も徹底的に叩き込まれる。私は「アナリスト教育」と言っているが、これをしっかりと受けたか否かで、足腰の強さは決定的に変わる。

 

この「前提要素」が身に付いて初めて、「差別化要素」の競争に移ることが出来る。

 

中途で入った場合、この「前提要素」については新卒と横並びでのスタートになる。

社会人数年での多少のアドバンテージは有るかも知れないが、戦略系ファームの場合は特にプロパーの優秀さや入社前の準備がかなり凄いので、むしろビハインドが有ると考えた方が良いと思う。

ここで、入社時の職位が大きく影響する。

これらの「前提要素」はアソシエイト前半までには身に付いていないと厳しいと思う。

しかし、中途の場合にはアソシエイト入社の場合も多い。そうすると、新卒であれば4年程度をかけて身に付けることを、精々2年で身に付けることが求められる。一方でアナリストで入れば、随分と余裕が生まれる。

 

とは言え、最初の会社で3年程度経験し27歳位で入社というのであれば、3年で「前提要素」を身に付け、計5年位(32歳位)でマネジャーに昇進というのは許容の範囲内だと思う。しかし、例えば32歳で入社するとその計算ではマネジャー昇進が37歳。これだと駄目とは言わないが、少し厳しいと思う。

 

しかも厄介なのは、前職での経験が長ければ長いほど、そこでの「癖」が付いてしまっており、コンサルタントとしての「癖」が付かない。先に前職での「癖」を取り除く作業が必要になる。これに時間がかかる。

これも、ある程度の経験を積んだ中途がコンサルでやって行くことを難しくする理由。

 

 

加えて「差別化要素」の方についてだが、これは正直、前職で3年経験していても6年経験していても大差無い。恐らく、2年経過した段階位からは、課長級の仕事を経験するまでは大差無い。

勿論、差は有るのだが、事業会社の課長未満でできる仕事というのはたかが知れている。確かにその業界/会社固有の知識は高まるが、それはコンサルタントで重要性の高いものではない。

1年間長く事業会社で経験を積むということは、トレードオフとしてコンサルに入るのが1年遅くなる。得られる経験よりも、若手として過ごすコンサルでの1年間を失う機会損失の方が遥かに大きい。

また、経験として知っているという強みは、逆にマイナスに働くことも有る。ある領域(特に業界)について詳しくなるということは「固定観念」が生じるということ。

経験で語るのは戦略コンサルタントではない。その点に濁りが生じることも少なくない。

これもあって、あまり長い期間事業会社を経験するのは「戦略コンサルタントとして勝負する」ということを考えるのであれば得策ではない。

 

 

とは言え、この話の大前提は「戦略コンサルタントして勝負する」ということ。

例えば日系の大企業で10年間働き、その後に3年から5年間程度をコンサルファームで過ごし、その後に大企業時代に培った能力をベースに外資系企業やベンチャー等に転ずるというキャリアパスも有る。

これは、大企業時代に培った能力が「前提要素」で、コンサルで得たものが「差別化要素」となる。全く話が変わる。

そして個人的には、このキャリアパスを歩む人の方がビジネスパーソンとしての競争力は格段に高いと考えている。

 

このパスを考えるのであれば、コンサルファームはあくまでも「学習の場」と割り切り、尚更に目先の職位やプライドなどは全て捨て、年下の上司などに徹底的に鍛えてもらうことを意識した方が良いと思う。

 

30歳前後でコンサルタントに転職して生き延びるために必要なこと

先日、Twitterで書いたことに絡んで。

 

「戦略コンサルタント」という仕事に限定すると、ここで書いた通りだと考えている。

事業会社での経験というのは生き辛い。勿論、生きる場面もたまには有るのだが、それ以上に「戦略コンサルタント」としての要素を強く求められる。そしてこれは新卒スタッフの方が圧倒的に強い。

この差はマネジャー以降で更に大きくなると思う。

先日ブログで書いたこと(「マネジャーになるまでにすべきこと」)だが、アソシエイトの能力をかなり高い水準で満たしていないと、マネジャーになって「巻き取り」の局面で弱くなる。また、経験幅も限られる。

 

そのため、戦略コンサルタントとして生きるなら、なるべく早くに転じた方が良い。

 

とは言え、30歳過ぎで転職しても生き延びている人も居る。そのために何が必要なのか。

 

一番は、取り敢えず入社時になるべく職位を下げて入る、ということだと思う。

これは絶対だと思う。

 

採用時には前職での収入が影響するので、元々比較的報酬水準が高い業界に居た人は、いきなりアソシエイト後半位で入社するというケースも少なくない。

しかし、これは避けた方が良い。

戦略コンサルタントの仕事の基本は全て、アナリスト教育によって培われると言っても良いと思う。ここで如何に徹底した訓練を受けるのかが重要。

理想的にはアナリストで入る。それが駄目でもアソシエイト前半で入ることが必要。目先の給与に囚われてアソシエイト後半で入っても、コンサルタントとして必要な能力が身に付かない。

 

その上で、プライドを捨てる。これは絶対不可欠。

30歳前後だと社会人経験6年から8年といった形。前職では既にそれなりの仕事も任され、後輩への指導なども担っているような立場になる。

しかし、前職での仕事とコンサルタントの仕事は全く別物と考えた方が良い。プロ野球選手がいきなりJリーガーに転じた、位に違うと考えた方が良い。「運動神経と基礎体力が重要」というのは変わらないが・・・程度。

そのため、自分は末端の人間なんだ、という認識を持ち、自分より年下の先輩の指導を素直にしっかりと受け入れる。雑用などにも率先して取り組む。この時点で十分に出来ていない人が多い。

 

そしてもう一つ、「保守本流」を目指さないこと。30歳前後で転じた人は「亜流を極める」という意識の方が良い。

特に初めのうちは「保守本流」の戦略コンサルタントになることに憧れを持つ。しかし、ここはプロパーの中でも選りすぐりの人間が、徹底的に鍛えられて辿り着く所だと思う。30歳前後では既にプロパー内でも競争が完結しているとも言える。

それよりも、他の人が嫌がる所で闘った方が良い。ここはプロパースタッフがどちらかと言えば苦手とする部分。価値が出し易いし、重宝される。

「戦略コンサルタントになってこんな仕事をするのか」というようなことは言わず、人が嫌がったらチャンスと思った方が良い。保守本流に「近い」所までは道が続いているはず。

 

これらに加えて、アナリスト、アソシエイトの内に量を経験していなければならないことを自分の努力(仕事以外の時間)でカバーすること。

アウトプットを読み漁る、Excelを使い倒す、等々。質の前に量は不可欠。

 

これらが出来て初めて、通常の競争の土俵に乗ることが出来ると思う。

早くに昇進することの是非

育成の話をする際に議論をするポイントになり易いのが「早くに昇進することが良いのか否か」ということ。

この場合、例えば目安4年の職位に対して3年で上がる(1年スキップする)、というようなものではなく、2年、場合によっては1年で上げることが良いのか、というようなレベルのもの。

 

コンサル業界は年齢や経験などに関係無く、能力が有る人が早くに昇進する。

これは確かに正しいのだが、補足しなければいけないのは「能力が有る」に「組織内で相対的に」という言葉を頭に付ける必要が有るということ。

 

昇進判断をする際には本来、例えばマネジャー昇進であれば「マネジャーとして期待される役割を果たすことが出来るのか」ということが問われる。その基準に照らして昇進の可否を判断する。

しかし実態としては他に2つの大きな要素が影響していると思う。それは

  • 今の職位で何年経ったのか
  • 横並びで見てどうなのか

ということ。

 

「年齢や経験などに関係無く」と書いたが、それぞれの職位で大体何年程度、という目安のようなものが各ファームに有ると思う。

勿論、これは目安でしかないはずのものなのだが、実態としては、「昇進に完全に適するとは言わないが、さすがに随分とこの職位に留まっているし」という理由で上がるケースが発生する。特に「使い勝手が良い」スタッフの場合には辞められても困るし、というような心理が働く。

これに絡んで、「横並び」での議論が始まる。

例えばある人を昇進させる際に「新卒同期だから、彼を上げるのならこの人も上げないと」というような議論は結構多い。

 

これにより、職位に見合わない(足りない)昇進は結構生じ易い。

これは特に好況期には運営側としてもメリットが有る。顧客への提案の際、マネジャーとしての能力が無い人であっても「マネジャーを1名100%でアサインします」と言えば、マネジャー1名100%分のフィーを要求し易い。

私はアサイン構成と全く無関係にフィーを決めるのだが、特にコンペの際(かつコンサルを使い慣れている会社の場合)は、「どの職位を何名、何%で稼働させるのか」を問われるケースも少なくない。それにより金額が高い/低いを評されたりする。

 

そして、これに絡んで生じるのが「物凄く早い昇進」をする人。

職位に見合わない人を昇進させると、横並びで見て「職位に見合っている人」を更に昇進させないとおかしくなる。この辺まで来ると、元々の「職位で期待される役割」は大きく崩れ、要求水準が著しく低下する。

結果として、組織内で相対的に見て「優秀」と評される人は、職位が極めて早くに上がるという状態になる。

 

 

で、本題は、このように「職位が極めて早くに上がる」ということが、その本人にとって良いのか否か。

 

私は、これは望ましくない(避けた方が良い)と考えている。

 

トップティアのファームであり、かつ、しっかりとした評価がされた結果として昇進しているのであれば問題は少ないと思う。

また、早い段階で他業界に転職することを考えており、コンサルファームをあくまでも「ステップアップ」の手段と考えている場合にはむしろ望ましいと考えている。これは早いうちに箔を付けて転職した方が良い。

 

私が望ましくないと考えるのは、前提として、トップティアのファームではなく、かつ、戦略コンサルタントとして生きて行きたい、と考えた場合。

 

先日、下記のような記事を書いた。

 

takashi-kogure.hatenablog.com

 

この中で、マネジャーになるまでに「強靭な足腰」と「幅広い種類の案件の経験」という2つ(+「『本物』を知る」)をマネジャーになるまでにすべきと書いた。

早い昇進をする人は、この両面でやや不安が残るケースが多い。

後者はそもそも経験の問題なので当然だが、前者も同様。

優秀な人は往々にして、早い段階から「一つ上の仕事」を任される。これは良い面も有るのだが、一方で基本の「型」が不十分になるケースも多い。

この観点から、アナリスト、アソシエイトは一定程度の時間を過ごした方が良いし、マネジャーの時期も別に身に付けるべき要素が有るので同様と考える。

(ただ時間を過ごせば良いのではないことは当然だが)

 

とは言え、マネジャーまでは一気に駆け上がっても何とかなるとは思う。

それは、マネジャーまでは後ろにパートナーが要るから。また、マネジャーになってもスタッフで身に付けるべき経験を積むことは難しいが不可能ではない。

実際に私もマネジャーになってから特に「幅広い種類の案件の経験」を積んだ。

 

しかし、越えることに気を付けなくてはいけないのは「数字責任を負う立場」への溝。ファームによってマネジャーから要求される所も有れば、パートナーだけが負う所も有るが、ここへの昇進は相当に気を付けないといけない。

 

この立場になると、市場基準で見た時の自分の能力水準が問われる。それまでは社内での競争だったが、ここからはゲームが大きく変わる。

最初のうちはファームの名前で舞い込んで来る仕事を取ったり、力の有るパートナーが取って来る案件で数字を分けて貰ったりすることで数字が上がったりする。しかし、早かれ遅かれ「自分で稼ぐ」ことが求められる局面が来る。

この時に、市場で見た自分の競争力が露呈する。

そして、「組織内で相対的に見て能力が高い」故に物凄い速さで昇進した人は、この段階で市場での水準とのミスマッチに気付く。

 

そもそも、仮に「戦略コンサルタント」をやっていてマネジャーから数字を求められるのだとすると、すぐにでもそのファームは辞めた方が良いと思っている。

本物の「戦略コンサルタント」になるためには、マネジャーまでは数字は全く意識しなくて済む環境でなければ厳しいと思っている(し、全うな戦略系ファームでマネジャーから数字を要求する所は無いはず)。

もう少し言えば、「戦略コンサルタント」としての真の能力を身に付けるためには、「数字を意識しない状態でどれだけ経験を積めるのか」が大きく影響すると思っている。ファーム内で生きていて数字を背負うと、どうしてもジレンマが生じる。

 

私が有難かったのは、前職で営業して一定程度の数字を稼ぐ立場になったのだが、ファーム事情が有ってシビアな「数字責任」を負わない状態で少しやらせて貰えた。(正確に言えば、負う立場へのオファーを受けて辞めたのだが・・・申し訳ない)

「営業する」ということと「数字責任を負う」ということは全く意味が異なる。

営業することは勉強になるが、評価が数字(営業成績)で決まるという状態はプロフェッショナルたる戦略コンサルタントとしての邪魔になる。

 

そのため、「プロフェッショナルたる戦略コンサルタントとは何なのかが明確に見えた」と思えるまでは、数字責任は負わない方が良い。

 

マネジャーでは、アソシエイトまでに出来ていなかったこと(幅広い経験等)が残っていれば、苦労してでもそこを埋めるのが第一。

その上で、数字責任を負わず「戦略コンサルタントとしてのあるべき論」で議論できる立場、かつ、しっかりとしたパートナーのサポートを受けながら、様々なタイプの企業での臨床経験を数多く積む。ここに注力すべき。(先日の記事の中での「アプローチ方法」の部分)

ここでの臨床経験の差が、結局のところ「戦略コンサルタント」としての力量の差になって現れると思っている。

 

 

若いうちは早くに昇進したいと思うかも知れない。

しかし、歳を重ねて振り返ると、若いうちにしか経験出来ないことが多々有ると強く感じる。若い頃には「無駄」だと思ったことが、歳を取って振り返ると非常に「貴重な時間」だったと感じるような。

(大学受験での浪人や留年経験などもそうかも知れない:私はストレートで社会に出てしまったのだが、今振り返るともう少し無駄な時間を過ごしておきたかった)

 

 

ちなみに、ファームでのキャリアの中で輝く時期というのは2つ。

  • マネジャーへの昇進がもう確実と言われる状態でのアソシエイト最終段階
  • 数字責任を負わない中で最も高い立場

この時期は本当に貴重。許されるなら「しっかりとした足固めをしたいので昇進を1年遅らせて欲しい」と言ってでも延ばした方が良いと思っている。

これは、その時期には有り難さを感じずに通過してしまう人も多いと思うので、しっかりと噛み締めて過ごして欲しいと思う。

新社会人に伝えたいこと

新年度の開始に際し、新社会人の方々に伝えたいことを過去記事等からリストアップしたので、興味が有れば(&時間が有れば)読んで頂きたい。

なお、内容を細かく読み返したりはしていないので、重複している要素が有ったり整合性の問題が有ったり、ということはご容赦下さい。

 

 

 1. 社会人/コンサルタントとして生きる前提として

 

 

 

 

 

 

 

2. 「戦略コンサルタント」という仕事について

 

 

 

3. 備えた方が良い意識について

 

 

 

 

 

4. 若手のうちにやるべきこと

 

 

 

5. 仕事のスキルを高めるために

 

 

 

 

 

 

6. 持続的な成長のために

 

 

 

7. 頭の片隅に置いておいて欲しいこと

 

 

 

 

8. 推奨書籍

 

 

マネジャーになるまでにすべきこと

コンサルタントのキャリアの中で、一つの大きな転換点がマネジャー昇進だと思う。

ファームに属していていれば「コンサルタントをやっています」と言えるわけだが、本当の意味でのコンサルタントとしての勝負はマネジャー昇進によって始まると考えている。

しかし、マネジャー昇進後の勝負では、マネジャー昇進までにどのような質・量の経験を積んだのかが大きく影響する。

 

新卒もしくはそれに準ずる立場でファームに入った場合、マネジャー昇進までは5年間位が一つの目安になる。この5年間をどのように過ごすのかは、かなり意識した方が良い。

一度マネジャーになってしまうと、それまでに身に付けるべきことが不十分だとしても、改めて身に付けるということが(不可能ではないが)難しいものも多い。

 

特に必要なものは

  • 強靭な足腰
  • 幅広い種類の案件の経験

という2つだと思う。

 

「強靭な足腰」というのは、調査・分析といったコンサルタントの基本所作について、特にスピード。(正確性とかは大前提として)

マネジャーになると調査・分析能力についてスタッフに委ねると考える人も居るようだが、特にスピードについてスタッフよりも圧倒的に速い必要が有る。それは「巻き取り」のため。いざと言う時に最前線に立って高い戦闘力を発揮することもマネジャーの重要な役割。

Excel操作等を含めて、とにかくスピードを追求することが必要。

 

 

「幅広い種類の案件の経験」については、思っているよりも「幅広い」と思う。

マネジャーになると、ある程度、得意な領域とかテーマが見えて来る。そのため、マネジャー昇進後に経験できる案件はかなり偏って来るはず。

アサインする側としても、マネジャーは特に「経験が有る人」が優先される。そのため、マネジャーになってから領域を大きく広げるということは難しい。

そして、マネジャーで居る間は経験範囲が狭くてもあまり問題と感じない(むしろ経験範囲が狭い方が時として楽に感じる)と思う。

 

しかし問題になるのはパートナー昇進後。

 

マネジャーまでは言い方は悪いが「部品」なので、必要な所に適当な形のものをはめる。そのため「形がはっきりしている」方が、そして、なるべく「汎用性が高い」方が使い易い。

しかし、パートナーになると「設計」が仕事となる。顧客とのやり取りを通じて「どのような商品を求められているのか」をイメージ・デザインし、設計図に落とす。

 

「設計」の上で必要なのは、なるべく多くの種類の「部品」に関する知識と、設計の「アプローチ方法」に関する知識。

コンサルにおける「部品」というのは、例えば人事制度やシステム導入、原価管理やガバナンスといった個別テーマ。「アプローチ方法」というのは、例えば「カリスマ創業者が健在のオーナー企業における対処の考え方」とか「成熟市場で悩む企業における対処の考え方」といったようなもの。

 

顧客の真のニーズに合致した設計図を描くためにも、より多くの「部品」の種類、「アプローチ方法」を知ることが必要だが、後者は恐らく、マネジャーになって以降で良い。それまでは前者。

全てにおいて必ずしも詳しく知っている必要は無い。しかし、全く知らないというのでは話にならない。なるべく多くのテーマについて一度は経験しておいた方が良いと思う。

 

アソシエイトまでは経験の有無に依らずアサイン機会を手に入れ易い。しかし、マネジャーになると「未経験」の領域でのアサイン経験は得辛く、領域が固まり易い=アソシエイト時代までの経験で領域が規定される。

しかし、パートナーになると幅広い領域が必要となる。

これが、なるべく幅広い種類の案件をスタッフ時代に経験すべきと考える理由。

 

 

加えてもう一つの要素を加えるなら、「高いレベル(『本物』)を知る」ということか。

 

特に甘いファームで育つと、真に求められるレベルを理解できないままでマネジャーになる。そして、何となくその低い状態を「適正な状態」と感じてしまう。(私自身もそうだった)

マネジャー前半位までにコンサルタントから離れて行く人の中で「コンサルタントは大したことない」と感じている人は少なくないと思う。それは「本物」を知らないからだと思う。そして、自分自身が「大したことない」コンサルタントだったということ。

「『本物』を知る」ということは早い段階で経験しないと、ある程度の年齢/立場になると軌道修正が難しくなる。

 

その点からもアソシエイトの内に「本物」と接することが必要なのだが、まずファーム内で「本物」を探し、その人の下で仕事をする機会を得る努力をすること。

加えて、(トップティアのファームに属している人以外は)上位5%位の評価を受けていたら高いレベルのファームに移った方が良いと思う。総合系の人は戦略系へ、戦略系の中でもティアが低いファームの人は高いファームへ。

私が考えるベストな形は、元のファームでマネジャーに昇進し、1年経過時点を目途に高いティアのファームに転職する。その際には一度アソシエイトに職位を落として。

(注意点は、一般的に「トップティア」と言われている所でも、質が落ちているファームが有ることだが)

 

 

このような点に意識を払ってアソシエイトまでの時間を過ごすことが必要だと思う。

自分のキャリアについては常に意識を払わないと、マネジャー以上に都合良く使われて終わる。色々と上手いことを言う(コンサルタントは基本的に口が上手い)が、本気でスタッフのキャリアを考えている上位者などごく僅か。

コンサルタントは「ポータブルなスキルが身に付く」といったことが言われるが、実際には、かなり意識しないと「取り敢えず器用に作業できるが、特に何もできない人」に陥り易い。

 

自分のキャリアは自己責任だし、「若手」の期間は短く非常に貴重なので、自分のキャリアについて常に考えながら過ごした方が良いと思う。

沈黙・余白を怖がらない

プレゼンテーションの際、相手に意見を求めた時などに「沈黙」が生じるとそれを埋めに行く人が居る。

相手から求められていないのに補足の説明をしたり、説明を言い換えたり。

これは止めた方が良い。

 

相手に意見を求めた際、即座に返答が無い場合というのは、自分の説明に対して相手の理解が追い付いていない場合が多い。それは説明自体の理解が追い付いていないということも有るし、提示した考えに対する理解が追い付いていない場合も有る。

 

前者の場合は補足の説明をした方が良いと思うかも知れないが、どこが引っ掛かっているのか特定できない状態で説明を加えたり言い換えたりしても、余計に理解を邪魔する。この場合は「この部分が分からない」という質問が来てから説明を加える必要が有る。

 

一方で後者の場合。これは相手が元々持っていた考えと、自分が提示した考え。この二つに乖離が有ることで違和感を持っている場合が多いと思う。

この場合に、即座に「違う」という反応を示す人も居るが、一度提示された意見を腹に落としてから意見を出すタイプの人に「沈黙」は生じ易い。

そして、これはコンサルタントとして非常に重要なポイント。少なからず自分が提示した意見が相手の中に染みているということ(「染みている」だけで「沁みている」かどうかは別だが)。間を持って議論の土台ができるのを待った方が良い。

 

 

経験が無いうちは、会議の中での「沈黙」や、資料の中での「余白」が怖くなることが多いと思う。「自信が無いうちは」と言い換えた方が良いかも知れないが。

しかし、プレゼンテーションも資料も、相手に理解して頂くためのもの。ここで重要になるのは「情報量を減らす」ということ。情報量が増えればそれだけ、理解し辛くなる。

沈黙や余白が「有るから埋める」という行動は、不必要だけれど「空いているのも気持ち悪いから」という理由で「ゴミ」を付け加えているということ。

 

沈黙も余白も、相手が「咀嚼」するために必要なもの。

プレゼンテーションの際などに、どうしても自分自身と相手との間に「前提となる理解度の差」は生じる。それは当然のことで、それまでそのことについて徹底的に考え抜いて来た自分と、その考えをパッと聞く相手。自分のペースで説明をしたら相手は付いて来れなくなる。

伝えるべきことをしっかりと伝えたなら、相手が反応するまでしっかりと待った方が良い。

 

 

なぜ、沈黙や余白が怖いのか。

前述の通り、「自信が無い」ということが理由の場合が多い。そしてそれは「十分に考え抜けていない」と更に言い換えられるかも知れない。

以前にどこかで書いたような気がするが、100ページ分考えて100ページの資料を作ってもダメ。1ページ分だけ考えて1ページの資料を作ってもダメ。100ページ分考えて1ページに凝縮させる。このようなことが必要。

同じシンプルな表現であっても、徹底的に考え抜いた上での表現は相手にしっかりと響くし、上っ面だけ考えただけでの表現は軽薄になる。

 

このように徹底的に考えた上で臨めば、沈黙も余白も怖くない。

むしろ、意図的に沈黙や余白を創り出す余裕が生まれる。所謂「間」というもの。

 

自分と同じことを言っているのに、パートナーが言ったら何か相手に刺さった、という経験をした人も少なくないと思う。

私自身、若い頃に不思議に感じていた。「パートナー」という肩書の効果だと思ったりもした。

しかし、これは違うと思う。(多少は有るが)

 

よく「大物感」とか「オーラが有る」といった表現が使われたりするが、この正体は「間」の使い方だと思っている。雰囲気が有る人は「間」の使い方が絶妙。そしてこの「雰囲気」によって相手は何かを感じ取る。

コンサルタントという仕事は無形の商材を高額で売っているものなので、このような雰囲気のようなものは重要になる。

「間」を使いこなすことは大きな武器となる。そのために「沈黙・余白を怖がらない」ということが必要になると思う。

 

なお、「大物感」といった雰囲気を持っていることがイコールで「大物」とは限らないということは付け加えておく。

しっかりとした中身を持ち、かつ、雰囲気を持つこと。これも重要なこと。

「痛い目」に遭う経験も必要

優秀と評される人が、あるタイミングで大きく躓く経験をすることは多い。

結構多いのが、入社直後に「非常に優秀」と言われたスタッフが、アソシエイト辺りで完全に伸び悩み、そのままアウトするケース。それまで「躓く」もしくは「挫折」という経験をしたことが無い人が初めて躓いた時、慣れていないのでちょっとした躓きが大転倒になっている、とも感じる。

一方で、マネジャー以上で評価されている人は、スタッフ時代に「抜群」ではなかった場合も少なくない。

 

社会人になると、幾度かの「ギアチェンジ」が必要となる。そして、これはかなり意識することが必要。

大きなものは以前に書いた。

takashi-kogure.hatenablog.com

 

新卒ないしはそれに準ずる立場で中途で入った人だと、最初にギアチェンジが必要になるのはアナリストからアソシエイトへの変化だと思う。

 

「アナリストとして優秀」と評されるのは、主に、情報を集めたり、集めた情報を基に分析をして、一定の事実を示すという点で長けている場合だと思う。

これは、結構慣れのようなものも多く、大学時代にそれなりにやっていたり、入社前に意識的に「練習」を積んでおくとスタートダッシュをかけることが出来たりする。

 

しかし、これで評価される期間は非常に短い。「アナリストからアソシエイトに移る際に必要なこと」とは書いたが、実際には、「アナリストとして優秀」と評価された次からは「アソシエイトとして」見られると考えた方が良いかも知れない。

正確に言えば、「アナリストとして優秀である」というだけだとアソシエイトの昇格要件を満たすことにはならず、「アソシエイトとしての態勢が整った」ということが必要で、その点を見られている、ということかと。

(アソシエイトの昇格でそこまで厳しく見るファームは少ないが、少なくとも「アソシエイトとして戦力になるか」は見ている)

 

ここで一度、求められる付加価値が大きく変わる。

「補佐」的な役回りから、「主体」として案件に携わらなければならない立場になる。任される仕事の範囲が大きく拡がる。

この場合の「仕事の範囲」とは、仕事の種類についてもそうだし、加えて、責任範囲といった要素も含まれる。例えば、同じ調査であっても、作業設計を任されることも増えるだろうし、レビューにおける上位者の前提、つまり「この辺は細かく見なくても大丈夫であろう」(そこまでは任せて大丈夫)という認識なども変わる。

 

しかし、その変化に、特に意識面が追い付いていないケースも多い。少なからず「変わらなければならない」ということは気付くのだが、どの程度変わらなければならないのか理解出来ていないし、変わるための取り組みも不十分になる。

その結果として、付加価値が全く出せずに自信を失い、更に付加価値は出せず・・・という悪循環に陥り、最終的にはボロボロになるというケースも多い。

 

このような悪循環に陥るのは、アナリストからアソシエイトへの転換だけでなく、アソシエイトの中でもシニアなアソシエイト(裁量の範囲が大きくなる立場)への転換など、他にも幾つかの場面で起こり易い。

思い出すのも嫌になるような「痛い目」に遭うということ。


しかし、こういった「痛い目」に遭うという経験は、成長の過程で必要なことだと思う。

勿論、予め必要な「ギアチェンジ」を認識し、すぐに順応できることが望ましいとは思うが、実際には難しいと思う。前述の通り、「どの程度変わらなければならないのか」などは、経験しないと理解出来ないことも多い。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉も有ったりするが、やはり、経験しなければ得られない感覚のようなものは必ず有る。

 

痛い目に遭うこと、キツイ思いをすることなど、自分にとって苦しみとなるようなことを避ける人も多い。しかし、そういった人は、結局何処まで行っても逃げるだけの人生となると思う。

 

自分がどのようなステージに居て、何が不足しており、それをどのような形で埋めて行くのか。また、何が自分自身の差別化のポイントで、それを強めるために何をすべきなのか。

そのようなことを考える機会として、「痛い目」を成長の節目に変えて行くことが必要なのだと思う。