プロフェッショナリズムを追求する旅

戦略コンサルタントという理解し難い職を通じて感じるところ等々、徒然に書いて行きます

「電柱を1本ずつ数える」の意味

少し前に話題になったATK新代表の関灘氏の記事に絡んで。

toyokeizai.net

 

38歳という若さも驚きだったし、今まで取り組まれて来たことの徹底度合いも衝撃的だった。映画『マトリックス』を100回見た、というのも、読む前にそのエピソードだけ人から聞いた時には「英語の勉強か?」と思ったのだが、「何が人に刺さるのか、心を動かすのかを見いだすために」という目的を読んで唖然とした。

 

さて、私がこの記事の中でふと気になったのは、新卒採用時の面接を受けた際の「日本には電柱が何本ありますか?」という問いに対する「本気でお知りになりたいですか? だったら私、日本の南から1本ずつ数えますよ!」という回答について。

記事にも書かれている通り、これは典型的なフェルミ推定の問いで、論理的に推定して答えるのが「お作法」。

けれども、個人的には「本気で知りたいなら1本ずつ数える」という答えは、コンサルとして必要な意識であり、この答えはかなりの凄みを感じる。

 

調査・分析について、コンサルの価値は急激に下がっていると思う。ツールがかなり進化しているので、20年前であれば人海戦術かつ同時のルートを持っていないと得られなかったような情報を顧客側がデスクトップで得られ、しかも、通り一遍の分析もGoogleで検索すると出て来たりする。

(ちなみに昔は、有価証券報告書も今のようにネットで簡単に取れるものではなく、入手に手間が掛かった)

 

その中で、「一次情報を集める」ということの価値は薄れていない。

世の中では加速度的に情報量が増加しているが、最近ではテレビ番組を見てそれを文字に落としただけのようなものが「ニュース」として流れて来るような時代になっていて、「二次情報を更に加工したものを更にまとめたもの」(三次・四次情報?)といったようなものが溢れている。

そこまで行かなくても、加工された二次情報を前提として思考を進めるということが当たり前のようになっているのは少し怖い。

 

一次情報が必ずしも必要というわけでは勿論無いけれど、必要であれば一次情報を集める労を惜しんではいけないと思う。

 

この点、情報が簡単に得られる時代になったが故か、それとも「エリート」が集まるようになったが故か、軽視する人が多くなったように感じる。「効率」を過剰に重んじるようになったからかも知れない。

地味で退屈な作業になることが多いけれど、一次情報を集めて初めて見える世界も有り、また、提言の説得力も増すので、軽んじてはいけない。

 

但し重要なのは

  • 「本気で知りたい」のか、知る意味は有るのか
  • どのくらいの精度が必要なのか
  • 一次情報である必然性が有るのか
  • より効率的に得られる手段は無いのか

といった点をしっかりと確認すること。

 

そもそも、関灘氏の回答も「本気でお知りになりたいですか? だったら私、日本の南から1本ずつ数えますよ!」というもの。

相手が本気で知りたいと思っていないものを、ただ労力を使って集めるということは全くの無駄。また、相手が本気で知りたいと思っていても、それが意思決定の面などで意味が有るのかは別。

相手が本気で臨んでおり、プロジェクトの論点としても非常に重要であることが大前提。

 

また、「日本全国の」といったような情報の場合、意外と二次情報でかなりの精度の数値を得られることも多い。政府の統計情報などで得られたり、企業に問い合わせると答えが出たり。

但し、政府の統計情報も多くは推計なので、必ずしも正確ではない。同じような情報であっても、同じ省庁の公表数値でも統計によって全く数値が違ったりする。

その際、求められる精度によって対応が変わり、おおよその傾向が分かれば良いのか、正確な数値が欲しいのか。「おおよそ」の場合のレベル感はどの程度なのか。この点を確認し、それによっても取るべき手法は変えることが必要。

 

同じ一次情報を集めるのであっても、やり方次第で効率は上がる。

以前、ある産業材について各社がスペック別にどのような品揃えになっているのか、を調べていて、スタッフは各社のカタログを一社ずつチェックし始めた(数え始めた)。

しかし、この産業材については主要各社の製品はある方法で一覧が取れた。カタログを広げ出したので、私が「もっと簡単に取れそうな気がする」と思って少し探して見付けたのだが、同じ情報を得られるのであればなるべく短時間で終わらせる。

(なお、この時には、主要各社以外はカタログで数えたのだが、主要各社と比べてアイテム数が桁違いに少ないので、それほどの時間をかけずに終えられた)

 

  • 「本気で欲しく、それに意味が有る」のなら、一次情報を集める(作る)ことの労を厭わない
  • けれども、一度立ち止まって「同じことをもっと楽にできないか」と考える
  • そして、とは言っても楽できなさそうであれば、やっぱり労を厭わず地味で退屈な作業をやり切る

 

そのような意識が必要。

 

 

なお、選考に臨む学生/転職希望者にお伝えしておきたいこと。

 

戦略系ファームのグループ面接は、短時間でまとめて面接し、バッサリと人数を絞る場。そのため、相当に頭の切れを見せるか、少し奇をてらった(だけど「なるほど、一理有る」と思わせる)答えを出して印象付けるか。どちらかが必要。

「1本ずつ数える」という答えについては、特に他からある程度「お作法」に従った答えが出た後には有効だと思う。

 

しかし、ファームにもよるだろうが、グループ面接段階だと評価する側のレベルもかなり差が有る。「本気でお知りになりたいですか? だったら私、日本の南から1本ずつ数えますよ!」という答えの真意を読み取れるかどうかは疑問。

また、私が評価する側に座っていたとして、この答えが出て来たら幾つか質問する。それは、どこまで考えてこの答えを出して来たのか(言い換えると、「単なるパフォーマンスなのか」)を見極めるため。(どのような質問かは、その日のために書かないが)

 

諸刃なので、取り敢えず「お作法」に従った答えを出し、その上で述べる・・・といった使い方が無難だとは思う。

 

 

最後に、当然だが、関灘氏が当時、どのような意図を持ってこの答えを出したのか、その本心は私には分からない。あくまでも記事を踏まえて勝手に私が考えているだけのこと。