プロフェッショナリズムを追求する旅

戦略コンサルタントという理解し難い職を通じて感じるところ等々、徒然に書いて行きます

戦略コンサルの変質

この業界に20年以上居る人にとって、戦略コンサルという仕事が変化しているというのは共通した感覚ではないかと思う。20年前とは業界が様変わりしている。


大きくは人材と案件(の性質・内容)の変化。これらの2つの視点から詳細を後述するが、その前に全体感での変化について。

 

良い変化は
・一般的な認知が高まり、一つの業界もしくは仕事として認められて来た
・優秀な学生や若手社会人からの志望度が高まり、優秀な人材が集まるようになって来た
といったところか。

 

一方で個人的には、悪い変化として
・業界として確立されると共に尖った人材が減り、提言の質が低下している
・良くも悪くも規模を大きくすることに意識が傾斜した事業構造になっている
といったことを感じる。

良い変化と悪い変化は表裏の関係にあるもの。規模を大きくすることで認知度が高まるものの、それと共に質の低下を引き起こしているのだと感じる。

 

人材の変化

90年代後半から2000年代始めまでと現在を比較して、人材の質は大きく変わっている。
恐らく、偏差値的には現在の方が高い人が多いと思う。当時も学歴エリートは集まっていたと思うが、最近は優秀であることは言うまでもなく、素直で真面目に取り組むタイプの「優等生型」が多く集まって来ている。私のような古い時代のコンサルタントから見ると、なんでこんな良い学生がうちの業界に・・・と思うことが有る。

一方で、当時のコンサルタントは良くも悪くも非常に尖っていたと感じる。

 

このような変化の理由の一つが、戦略コンサルタントの「産業化」だと考える。
かつては良くも悪くも個人商店。強烈な個性を持つパートナーが個人の力で仕事を引っ張て来る。逆に、個性を持たない人間は少なくともマネジャー以上では通用しない世界だったので、そのような点からも尖った人間を集めていたように感じる。

(今と当時では、私自身の立場が大きく変わっているので、視点・基準の異なる比較になってしまうのは避けられないが)


しかし現状では、(最後は個人の力とは言え)組織として総合力で戦う時代になって来た。そのため、団体戦で力を発揮できる優等生タイプが生き残るようになって来たのではないかと思う。

 

これは一長一短。昔が良かったというように年老いた私は感じるが、やはりあの形では規模を追えない。そうすると、世間的に認められるという状態にはなり得なかったと思う。
また、かつてのような形は企業経営という観点からは健全ではない。やはり法人として持続性を維持する上でも、産業化した今の形への変化は必然だったと思う。

 

しかし、現在のコンサルタントは一流企業に居る人材と同質化してしまっている。それによって視点・切り口などが平凡になっていることが多いような気がしている。

 

案件の変化

今、戦略系ファームの中で一般的に(コンサル志望者が)イメージするような戦略案件の比率は大きく低下していると思う。

この理由としては需要・供給の両面有る。

 

需要面(顧客側)の理由としては、情報入手が以前より容易になったり、戦略コンサル経験者が事業会社に多く流れていることなどで、戦略を立てるということを外注する必要性が低下したということが挙げられる。


一方で供給面(ファーム側)の理由としては、規模が大きくなることで戦略案件にはアサインできない(より直接的な表現をすると「優秀でない」)人材も一定数確保せざるを得ないため、そういった人材でも回せる案件を意図的に受注していると言える。

 

特に供給面の理由について。

企業の経営戦略の根幹に関わるような案件を進めるためには、コンサルタント個人の能力が極めて高いことが必要条件となる。これらの案件は個々に全く背景・事情が異なり、案件ごとにゼロベースで考えることが必要となるため。
しかし、組織が大きくなっている現状では、そのようなことができる能力を持った人材は一部に留まっているため、戦略案件だけを受注するわけにはいかない(できない)という事情がある。

 

そのために行っているのが「定型的な案件の比率を高める」ということ。代表的なのがビジネス・デューデリジェンス(BDD)や業務改革(BPR)といった案件かと思う。


これらの案件は細かな部分は当然、個々に異なるのだが、大きな流れなどは案件間で大差が無いので、それほど優秀な人材でなくても回すことができる。また、「考える」ことよりも「調べる」こと(=体力勝負の部分)の比重が高いため、スタッフ中心でも回せる。

そのため各ファームは、BDDやBPR以外でも、なるべくこのような性質を持つ(進め方・考え方が定型的で、なるべく資料の使いまわしもできる/究極的には顧客名だけ書き換えれば報告書ができ上がる)案件を増やしていると感じている。

 

このこと自体はファームの経営側から見ると何ら否定されるものではない。別に戦略案件だけをやると決めているわけでは無いので、なるべく生産性を高める・標準的な人材でもうまく使える案件を増やすことは当然のこと。

しかし厄介なのは、このような定型的な案件をもって「戦略コンサルタント」であると勘違いしている人が増えること。顧客も「この程度の仕事なのか」と捉え、やっているスタッフも「所詮この程度か」と感じてしまう。

これにより、戦略コンサルタントの評価が昔と比べて下がって来ているように感じる。


昔は多くの人には知られていないけど、知っている人からは高い評価を頂ける。今は多くの人に知ってもらえているけれども、あまり高く評価されない。
このように感じるのは私だけだろうか。

 

ただし、そもそもの話として、
・実は戦略案件の絶対量は変わっておらず、規模が大きくなったことで比率が低下している
・昔は世の中での戦略に対する理解度が低かったので専門家っぽいコンサルに発注したというバブルだった
というだけのことかも知れないが。

 

いずれにせよ、時代環境や事業のステージと共に様々な面で変化するということは健全なことだと思う。
「昔は良かった」というノスタルジーに浸るのも酒の席では良いが、そのような変化に対して自分自身を適応させて行く。そのようなことが必要なのだと感じる。